原子炉実習基礎コースは、近畿大学原子力研究所で開催されています。
近畿大学原子炉(UTR-KINKI)を用いた原子炉運転の一連の操作を体験するほか、基礎的な原子炉物理、放射線計測に関する実習を行います。
私は、茨城県つくば市で生まれ育ちました。つくば市は、その全域が筑波研究学園都市であり、国内トップレベルの研究機関が集まっています。漫画(実写映画、アニメ)『宇宙兄弟』の最初の舞台となった「JAXA筑波宇宙センター」がある地域として知る人も多いかもしれません。私の父も公的研究機関に奉職し、地質情報(メタンハイドレート賦存域)の研究に携わっていました。科学が好きで、研究という営為を心から楽しんでいた父の姿を見てきた私にとって、「科学」や「研究」は特別なものではなく、身近で親しい存在でした。
高校は、理系を志す生徒が圧倒的に多く、「(進路で)迷ったら理系」という気風というか、不文律がありました。「学びたいのはサイエンス。でも医学や機械には興味がない、農学系に進んでみるのもいいかな」などと考えていた折、大阪大学で高校生向けに開催している「Saturday Afternoon Physics(SAP)」というプログラムに参加する機会を得ました。“最先端の物理を高校生に”という趣旨で、講義や実習が企画されていましたが、そこで実学(経験科学や技術に基づく実用的な学問)、ものづくりのおもしろさや奥深さに気付かされることとなりました。現在、私は原子力技術の根幹である原子炉物理の研究に取り組んでいますが、これはエネルギーの持続可能性という難しい課題に応える“実学”に他なりません。
原子力発電の燃料はウランです(ウラン235ならびに238)。ウランは無尽蔵に存在するわけではなく、枯渇あるいは世界的な需要の高まりに備えた技術開発が必要とされています。特に日本は、多くの資源を海外からの輸入に頼っていますから、エネルギー・セキュリティーという観点からも代替燃料の開発はとても重要です。
私は、近年世界的に再注目されているトリウム燃料の研究に取り組んでいます。トリウムはウランの数倍ともいわれる可採埋蔵量があり、資源の偏在もありません。ただトリウム単独では燃料として機能しない(核分裂しない)ので、核分裂性核種(ウラン233など)と組み合わせて使うことになります。燃料集合体(多数の燃料棒を格子状に組み上げた構造物)の効率的な配置とその妥当性について、機械学習モデルを用いて探っています。
私が所属する研究室では、原子炉実験実習への参加が研鑽活動の一つとして組み入れられており、私も学部4年生の時に、近畿大学原子力研究所を訪れました(編集部注:実験原子炉を保有する国内大学は、近畿大学のほか京都大学のみ)。実験では、原子炉の起動から臨界調整、出力変更、停止までの一連の操作を行います。臨界を保つことの重要性は頭ではわかっているのですが、実際に連鎖反応を一定レベルに制御することはとても難しいのだと体感しました。“現場”が教えてくれることに触れた貴重な体験でした。
福島第一原子力発電所の事故(2011年3月)が発生した時、小学生の私はその全容を理解することはできませんでしたが、報じられる映像などを通して、その影響力の大きさは感じ取れました。原子力という科学技術に対する畏怖と驚きを抱いた原体験だったかもしれません。(研究室の)同級生や先輩も少なからず同様の経験があるからこそ、主体性をもって原子力工学を選択しているという印象があります。
もちろん原子力発電に対する多様な見方や意見をあることは承知しています。私個人としては再生可能エネルギーを含めたエネルギー・ミックスはどんどん推進していくべきという考えですが、同時に合理的な視点から長所や短所を見極めるべきなのでは、とも考えています。複数の選択肢の確保が、健全性の担保につながっていくのではないでしょうか。
将来的には、これまでに培った専門知識と研究成果を生かし、原子力にかかわる仕事・研究に携わりたいと希望しています。エネルギーは私たちの暮らしや社会に不可欠なもの、原動力です。その安定供給の一端を担うことが、実学を志した私の目標です。
今回実習したカリキュラム
近畿大学原子炉(UTR-KINKI)を用いた原子炉運転を含む基礎的な原子炉物理、放射線計測に関する実習。
主に原子力を専攻する学部学生を対象とし、座学で得た知識を現場で実践して理解を深めるとともに、運転管理及び放射線管理の総体として原子炉施設が運用されていることを体験して理解する。
・2023年6月12日(月)~13日(火) 14名(名古屋大学)
・2023年7月19日(水)~21日(金) 14名(福井大学)
・2023年8月24日(木)~25日(金) 14名(東京都市大学)
・2023年9月1日(金) 14名(大阪大学)
・2023年9月4日(月) 8名(東京大学)
・2023年9月11日(月)~12日(火) 14名(九州大学)
・2023年9月13日(水)~15日(金) 28名(福井工業大学)
・2023年9月28日(木)~29日(金) 15名(東京都立大学)
・2023年11月29日(水)~12月1日(金) 15名(東海大学)