• 07
  • 実習体験インタビューPractical Training Experience Interview
  • 慶熙大学校原子炉実習

  • 2025年8月5日~8日
    慶熙大学校
  • Carren Liongさん
  • 名古屋大学 大学院工学研究科
    総合エネルギー工学専攻
    修士1年
  • 永田 琴乃さん
  • 名古屋大学 工学部
    エネルギー理工学科
    学部4年
  • 07
  • 実習体験インタビューPractical Training Experience Interview
  • 慶熙大学校原子炉実習

  • 2025年8月5日~8日
    慶熙大学校
  • Carren Liongさん
  • 名古屋大学 大学院工学研究科
    総合エネルギー工学専攻
    修士1年
  • 永田 琴乃さん
  • 名古屋大学 工学部
    エネルギー理工学科
    学部4年

慶熙大学校原子炉実習は、2025年8月5日から8日までの4日間、韓国の慶熙大学校で開催されました。

実習では、原子炉センターが保有する研究用原子炉「AGN-201K」を用い、基礎的な原子炉物理実験や放射線計測実験を行いました。3泊4日の実習を通して原子炉への理解を深めるとともに、海外の学生との交流も行いました。

原子力研究を志すことになったきっかけは?

「原子」の不思議に魅せられて工学分野へ、
そして原子炉物理の世界へ。

カレン・リオングさん (以下リオング): 物理は、「物(もの)の理(ことわり)を理解する」学問といわれます。“直径わずか1オングストローム規模の原子が、多数協調して遷移することで、マクロスケールでは膨大なエネルギーとして顕在化する” ―高校3年生の頃だったでしょうか、こうした原子の振る舞いがとても不思議に思え、原子核や放射線に関する勉強を深めたいと思いました。海外留学を考えるようになったのもこの頃です。

 留学先として日本を選んだ理由は主に二つ。母国のインドネシアでは、先進性と信頼性が際立つ日本車が人気で、日本は、非常に高度な技術基盤を持つ国というイメージがありました。また、東日本大震災という出来事を背景に、原子力発電の安全評価手法がどのように変化/進化していくのか、という興味もありました。言語、文化、生活習慣…すべてが異なる日本での学生生活は、不安や心配事と無縁ではいられませんでしたが、課外活動(放送サークルに所属し、ラジオ番組のパーソナリティを務めた)、不得手分野の勉強(プログラミング。ハッカソンでの入賞経験あり)など新しい挑戦を重ねてきました。「なんとかなる!」が私のモットーです。

東日本大震災を通じて抱いた
原子力発電への科学的興味。

永田琴乃さん (以下永田): 理系教科が好きで得意。そして日々の暮らしの中でもわからないことや興味のあることは、実際に自分でやってみて納得するタイプの子どもだったように思います。掃除の際にも「この汚れには、アルカリ性/ 酸性どちらの洗剤が適しているのか」という“小さな実験” を楽しんでいました。父や兄も理系で、私が自然科学に興味を持つようなさりげない導きがあったと記憶しています。

 原子炉物理を選択した背景には、やはり東日本大震災の存在があります。私は当時小学1年生でしたが、テレビの映像(水素爆発)に大きな衝撃を受けたことを覚えています。学年が進むと、授業で福島第一原子力発電所の事故も取り上げられるようになり、原子炉の仕組みや事故原因について調べ、クラスメイトと議論するようになりました。「原子力発電は利点を多く持つエネルギー源である、しかしそれを支えている自然科学の原理と、不確かさをどう扱うのか」といったことを深く考えるようになっていきました。これは現在の私の研究テーマにつながっています。

どのような研究に取り組んでいますか。

熱核結合計算に機械学習を導入。
早く・正確に・信頼性の高いデータを。

リオング: 次世代革新炉の熱核結合計算に取り組んでいます。炉心の安全性と発電性を同時に最適化するには、原子炉の高温環境下での無数の微小イベント= “核の動き” を温度の変化と結びつけて解析する必要があります。これまでの手法は、数値解析のモデルが複雑で、計算能力に大きな課題がありました。私は、計算手法の一部を機械学習に置き換えて、早く正確に、信頼性の高いデータを得る手法を開発したいと考えています。プログラミングを独学してきたことは前述しましたが、その知識が、現在の研究に生かされています。

核データの宿命である“不確かさ” をどう扱い、
より精度の高い予測をするか。

永田: 現在、各国が開発にしのぎを削る超小型原子炉(マイクロ炉)は、冷却材の喪失事故(loss-of-coolant accident, LOCA)を防ぐため、炉内に液体冷却材を使用しておらず(全固体炉心)、従来炉とはまったく異なる熱設計思想でつくられます。私の研究テーマは、この次世代炉の炉心解析です。

 原子炉の動作を予測する際に使う核データには不確かさが含まれます。私は、その不確かさが予測結果にどの程度影響するのかを評価するとともに、既存の実験データを取り入れる“データ同化” の手法によって、この不確かさを減らし、より精度の高い予測を実現することを目指しています。モデリングは新規性の高い取り組みで、たくさんの時間を要しました。

韓国・慶熙大学校での原子炉実習を通じて、
どんな学びや気づきがありましたか。

他分野・領域の知見を共有し合い、
実験データを深く読み解く。

リオング : 原子炉における「制御棒」の役割(原子炉の反応度(核分裂の進み具合)を調整し、安全に運転する)といった既知の知識を、実際に見聞できたことが大きな収穫でした。他大学からは放射線や量子ビームなどを専門とする学生さんが参加しており、異なる視点や知見を共有することで実習への理解がより深まったように思います。研究室の環境や研究の進め方など“研究文化” の違いも知ることができ、とても興味深かったです。

 議論やコミュニケーションはすべて英語で行われました。概ね英語話法は「結論」を明示してから「理由」を展開します。母国語も英語と同様、結論先行の言語です。私は、来日以来6年かけて日本語の典型的な構造(起→承→転→結)に順応してきたので、少し混乱してしまいました。

手厚くサポートしてくれた慶熙大学校のTA、
心に残った異文化体験。

永田 : 国内の研究用原子炉(近畿大学UTR-KINKI)で実習した経験もありますが、実験棟への入退管理などの違いが印象に残りました。また、実習には私が標榜する原子炉物理だけではなく、放射線計測などの他領域を専門とする学生さん(学部4年生から修士課程2年生まで幅広く)も参加されていて、議論を通じて、お互いの知識が補完されたのは良い経験でした。

 慶熙大学校のティーチング・アシスタント(TA: 学部授業(実験・実習・演習など)で教員をサポートする大学院生)がとてもフレンドリーで、私の不慣れな英語にも根気よく付き合ってくれました。また、市街地を案内してくださり、韓国の生活/食文化などについて説明してくれました。同世代の暮らしぶりを知ることができた有意義な体験でした。

エネルギーに関する考えをお聞かせください。

持続可能性、脱炭素電源としての
優位性を有する原子力発電。

リオング : 現在の生活の質を守りながら、将来の世代も同じように安心して暮らせる開発を目指す= “持続可能性” に向けた議論が盛んです。日本では、2050年までにCO2(二酸化炭素)排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを掲げています。エネルギー利用の方向性としては、安定供給を担う基幹電源とクリーンエネルギー(太陽光、風力、火力など)を組み合わせて利用していくことが必要ですが、クリーンエネルギーは枯渇の心配が少ない半面、自然条件への依存が高く、供給の安定性という面では課題があります。原子力発電は脱炭素電源としての優位性を有する一方で、事故リスク、安全性評価などの不確実性を社会がどう引き受け、信頼に基づく合意を形成できるか、といった問題があります。

 今後の電力需要は、データセンターや半導体工場の新増設などにより一層伸長していくものと予想されています。原子力発電の可能性を、科学的・技術的立場から考えていきたいと思います。

技術的安全性の訴求を通じ、原子力発電の負の
イメージを払拭したい。

永田 : 近年、電気料金が高い水準で推移しています。主な原因は、燃料価格の高騰。日本はエネルギー自給率が低く、石油・ガス・石炭の多くを輸入に頼っており、エネルギーセキュリティ上の脆弱性を抱えています。解決の一方策としては、一般的にも言われていることですが、特定の燃料や輸入先に依存せず、LNG、石炭、原子力、再生可能エネルギー、水素など、多様な資源で編成するエネルギーミックスを推進していくべきだと考えます。脱炭素という観点からも重要な取り組みです。

 原子力発電に関しては、社会受容が最大のボトルネックといわれており、リスクそのものではなく「リスクの捉え方」が、立場・知識・経験の違いによって大きく異なるという認知の非対称性があります。科学的視座と態度から丁寧に言葉を尽くして説明していく必要があるのではないでしょうか。負のイメージを払しょくすることに貢献していきたいです。

後輩へのメッセージをお願いします。

「Hard Choices, Easy Life」、
長い目でとらえることを大切に。

リオング : 母国というコンフォートゾーンを飛び出し、自分を成長させてくれるであろう未知の環境= グロースゾーン(日本)にやってきました。積極的に新しいことにトライしてきましたし、その一つ一つが自分の可能性の扉を叩いてくれたと感じています。好きな言葉は「Hard Choices, Easy Life」。これは今あえて困難な選択をすることで、将来的に楽で豊かな人生を送れるという意。長期的な視野で物事を選ぶ姿勢を大切にしていきたいですね。

原子力は総合科学技術、学びの限界を作らずに、
楽しむ気持ちとともに。

永田 :「 こんなことをやってみたい」ということがなくても、いろいろなことに取り組んでいくうちに、自分の得手不得手がわかってきますし、はっきりとした道でなくても、方向性は見えてくるのではないかと思います。進路を決めた後も、勉強の範囲を限定するのではなく、広く興味を持つことをお勧めします。例えば、私は炉心解析をしていますが、圧力容器・炉内構造物の「材料」という思いもよらなかった分野の知識が必要とされます。「原子力は総合科学技術」といわれる理由です。研究はたいへんなことも多いですが、わくわくするような新しい発見もあります。楽しむ気持ちも忘れずに。

今回実習したカリキュラム

近畿大学 慶熙大学校原子炉実習

分類

D

開催日

2025年8月5日~8日

募集期間

今年度終了

定員

12名

開催機関

近畿大学

対象

大学生、大学院生

目的・概要

韓国・慶熙大学校原子炉センターが保有する原子炉(AGN-201K)を用いた基礎的な原子炉物理実験、放射線計測実験を含む3泊4日の実習。

備考

使用言語は英語とし、実習中に実験データを英語のスライド資料にまとめ、英語でプレゼンテ ーションしてスタッフ・学生と議論する。原子炉について理解を深めるとともに、国際コミュニケ ーション能力を養成する。

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