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  • 実習体験インタビュー Practical Training Experience Interview
  • 原子力イノベーション留学
    SANI2025

  • 2025年9月~2025年12月
    カリフォルニア大学バークレー校
  • 藤倉 洪治 さん
  • 東北大学大学院工学研究科
    量子エネルギー工学専攻
    博士後期課程1年

原子力分野でのイノベーションを目指す大学院生の研究を支援するため、博士課程学生の米国大学への研究留学派遣を行います。

“今、すでにある” 放射性廃棄物、
核変換による減容をターゲットに。

 私の研究活動の中心には、原子力エネルギーの最大の課題である『高レベル放射性廃棄物』をいかに解決するか、という問いがあります。原子力発電に関しては社会の中でさまざまな議論があり、どのような将来像が結ばれようとも、放射性廃棄物は“今、すでにある” ものであり、その処理や安全性の確保は、決して避けては通れない重大な課題です。

 修士課程までは、放射性廃棄物の核分裂生成物(FP)をテーマに掲げてきましたが、博士課程からはマイナーアクチノイド(以下MA)へと対象を広げました。MA はその名の通り、量はわずか(マイナー)ですが、高い有害性を持ち、さらにそれが天然ウラン並みに減衰するまでには数万年、長いものでは数十万年という極めて長い歳月を要します。廃棄物処分におけるボトルネック、厄介者とされている理由です。

 MA の減容手段としては、次世代原子炉の一つである「溶融塩炉(以下MSR)」を用いた「核変換」があります。これはMA を炉内に装荷し、中性子を効率よく衝突させることで、低放射能・短半減期の核種に変えるという方法です。しかし、原子炉の運転を維持(臨界維持)するには“燃料” としてのウランを同時に装荷する必要があります。MA 核変換量とウラン資源消費量には「トレードオフ」の関係があると考えられており、できる限り少ない資源量で高い減容効果を果たすためのバランス、つまり最適なパラメータを見出すことが求められます。これは廃棄物処分だけではなく、資源の有効活用や経済性という観点からも重要なポイントとなります。

 MSR の核計算に関しては、カリフォルニア大学バークレー校・原子核工学科のマッシミリアーノ・フラトーニ教授が長年にわたり先駆的な研究を牽引しておられると知りました。そして、同学科が「原子力イノベーション留学SANI2025」の派遣学生受け入れ先であることを知り、迷わずエントリーしました。

マルチタスクな日々に、
研究者としてのタフネスを試される。

 選考試験・面接を経、無事SANI2025 に選抜され、渡米準備に入りましたが、苦戦したのがJ1ビザの取得でした。米国大使館の面接予約がなかなか取れないことには閉口しました。渡航2週間前に奇跡的に空きが出たこと、そして「緊急面談リクエスト」の申請が認められたことで、なんとか渡航1週間前にビザを手にすることができました。

 バークレー校での初めの1カ月は、研究計画の具体化に時間を要し、先行きの不確実性に不安を感じることもありました。しかし、指導教員のフラトーニ先生との定期的な個人面談を通じ、細やかな助言を受けながら研究の解像度を上げていくことができました。本研究において不可欠だったのが、燃料が液体として循環するというMSR の特異性を踏まえた、数値解析ツールの構築です。同校の計算機クラスター(スーパーコンピュータ)へのアクセス権を付与していただき、大量の計算を実行することができましたが、膨大なデータから物理的に意味のある指標や法則性を導き出し、各パラメータの変動傾向を把握するプロセスは極めてタフなものでした。並行して数値解析を行うマルチタスクな日々に、研究者としての基礎体力が試される思いでした。また、計算機クラスタ―は「ジョブ投入・自動割当」のキュー方式で運用されており、共有資源ならではの計画性も必要とされました。

 試行錯誤の甲斐あり、MA 核変換の性能とウラン資源消費量にはトレードオフの関係が存在すること等を定量的に捉えることができました。帰国した現在は、これらの成果を論文として発表する準備を進めるとともに、炉心設計の最適解に向けた探索を行っています。

スタートアップが集結。
米国における溶融塩炉開発の盛り上がりを体感。

 英語によるコミュニケーションは、フラトーニ先生との議論など研究面や技術的なことであれば、特段大きな壁を感じることはありませんでした。パワーポイントなどの資料を基に進めることができましたし、“共通言語” としての専門用語が互いの思考を正確につないでくれる実感があったからです。しかし、日常会話のやりとりでは、スピード感や特有のニュアンスを前にもどかしさを感じた場面も一度や二度ではありませんでした。幸いにも伯父夫婦がサンフランシスコ(バークレーから車で約40分)に住んでおり、寮探しなどさまざまな場面で力になってくれました。ネイティブスピーカーの伯母にも英会話の練習に付き合ってもらいましたが、「わからなかったら聞き返すことを躊躇しない」というマインドを育めたのは大きな収穫です。

 生活面では、聞きしに勝る物価の高さで、ファストフードも日本の1.5~2倍という体感。おのずと自炊が多くなりました。レシピサイトなどを参考に挑戦し、レパートリーを増やして帰国しました。

 滞在期間中、オークリッジ国立研究所が主催するMSR のワークショップに参加する機会がありました。第4世代炉と位置付けられるMSR は、米国政府の支援の下、潤沢な資金とプレーヤーが投入されており、多くのベンチャー企業が参入をうかがう非常に“熱い” フィールドであることが理解できました。海外の動向に触れることができたのも、この研究留学の大きな成果です。

 自分の研究が世界という大きなパズルの中でどのピースに当てはまるのかを俯瞰できたSANI2025、さまざまな体験を通じて、これからの研究活動や将来的な進路の確かな指針を見出すことができました。

今回実習したカリキュラム

東京科学大学  原子力イノベーション留学SANI2025

分類

E

開催日

2025年9月~2025年12月

募集期間

今年度終了

定員

2名程度

開催機関

東京科学大学

対象

大学院博士課程学生

目的・概要

原子力分野でのイノベーションを目指す大学院生の研究を支援するため、博士課程学生の米国大学への研究留学派遣を行います。

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